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青色申告課税要件情報公開保障を

租税行政手続においては、戦前の賦課徴収主義の影響やシャウプの推奨した申告納税制度が完全に機能されず((1))、税の使途について納税者の国家の税使用への関心が薄く、財政支出など監視も薄い((2))為、租税行政手続に対しても同様に関心が薄く、適正な手続が保障されずに現在に至っている。納税者は税務行政庁の奨める修正申告に応じる事により、事無きを得ようとする風潮が多いことは、税務訴訟がわが国で世界に比し少ない((3))事をみても明らかである。政治行政の腐敗や租税行政制度の誤解は、納税者への国民主権への思いを失念させる。そのため、納税者には国民主権主義的租税観((4))として税を捉える観点が欠け、また反対に国庫主義的租税観に対する人民主権主義的見地から租税行政に対抗する事により納税者の権利を強調し主張してきたものもある((5))。
シャウプ博士の目指したものは、青色申告制度であり、わが国の租税の基本として、そこには「国庫主義でもなく人民主権主義でもない納税者主権主義((6))」があり、その根底に「『租税は誰のためにあるか』『租税法は法律であり法律学である』及び『税は重きことを憂うるのではなく等しからざることを憂うるもの』」という理念が認識((7))され、それを正当に基礎づけるものとして租税正義が存在するのである。
租税正義とは「法を正しく解釈し適正公平に税を負担するという態度の堅持」である((8))。立法過程において充分に国民の意見の聴取が行われ、課税権を持つ国会によって立法された租税法律につき納税者課税関係が成立し、それら法律の情報が充分納税者に与えられる事により初めて納税者は申告が可能となるのである。法律の密度により課税要件の解釈が必要な時は、課税権限をもつ行政庁は法を解釈通達により国民に公定解釈を示すのであるが、解釈が公開されることにより、税目ごとに異なった取扱いが際立てば、自発的に関係法令の整備も進む((9))。情報公開法の施行により、納税要件情報は立法に参政権をもって参加する納税者の請求により開示され、結局、開示しなければならない行政庁は自主的に公開する方向に向かうこととなる。
室井教授が「広い意味においては行政手続の適正化の一環としても理解できる情報公開と参加は、たんに行政に対する国民と信頼を確保するという観点からのみ理解されるべきものではなく、現代生活を営む国民の『知る権利』と『参加権』に裏打ちされた、正義と公正のための、いわばフェア・プレイの原則の実現に向けての民主主義的態度である。((10))」とされているように、租税行政庁及び青色申告者において租税の正義の貫徹を理想とする青色申告制度においては特に租税行政庁と対等の立場であるから、租税法に対する解釈、基準は納税者と租税行庁は同じ視点であるべきであり、租税情報の公開は申告納税制度を支える上でも重要である。
つまりは、申告納税制度は「法の第一義的解釈権を国民に与えているので、法の解釈通達が納税者のもつ一般的社会通念に反すれば、納税者は争うことによって、いずれが正しい解釈かを司法裁判所の最終判断に委ねるのである((11))。」とされるように、国民には第一義的解釈権があるとすれば、誠意ある納税者には租税実体法が成立する過程、結果、趣旨、要件、基準や行政庁における運営指針・詳細を含め本来国民に全て情報公開されるべきなのである((12))。しかるに、今もって租税行政庁は国民(納税者)が判断できない基準をもって申告事後において修正申告を慫慂しており((13))、これは明らかに租税正義に基づかない税務行政が行われているとい言わざるを得ない。
また、「国民の知る権利」は情報公開法1条の国民主権の理念から導き出されるものであるから、信頼に基づき行政と対等の関係であり、租税行政上の権利保護が承認されている青色申告者には情報が公開されなければならないし、法解釈の事前周知は保障されなければならない。誤った情報で申告を行った時は信頼の原則が働き保護((14))され((15))なければならない((16))。この場合において、租税法律主義との関係が深刻になる。つまり、誤った見解や解釈が公に公表されている時に、信義則とのかかわりが問題になる。近年、解釈通達に基づき申告を行った結果、通達だからと租税行政庁が更正を行い、租税行政庁が支持された判例もあり((17))、信義則の適用もおおかた定まっている以上、公表するから必ず税が減免されたり納税者が保護されるわけではない。青色申告者においては、第一義解釈権を納税者にあるのはもちろん、適正手続の保障という制度の中、正規の簿記の原則に基づいた真正なる所得計算を法は期待している。また、不確定な概念の規定につき自ら解釈をして申告するに当たり、法解釈の争いは想定されるものである以上、訴訟上の手続も整備される必要もあり、その間、過少申告加算税や延滞税などは停止されるべきであり((18))、加えて、事前の手続であるアドバンス・ルーリングやそれに基づくノー・アクションレターの制度も有効に使用できる手続の保障を与えるべきである((19))。口頭指導の結果、一般解釈を示しただけという理由で信義側が適用にならなかったり((20))、法の解釈や基準が示されず申告を行った結果、更正や司法の判断により誤りとなった場合に、過少申告加算税などの徴収が行われる((21))ことは、誠意ある納税者にとっては税務行政に対する信頼を失う結果に繋がり支持できない。この場合、過少申告加算税が減免されるという理由で、納税者は課税の延長を謀るため租税を回避するか、または故意に訴訟を想定する場合があるが、青色申告が誠意ある納税申告を前提に成りたっている以上やむを得ない。租税行政庁は青色申告承認を遡って取消すことが可能であるから悪質なケースはそのような手段をもって対抗すればよい。しかしながら、そうはいっても青色申告者に制度上の保護を付与する以上、その承認を租税行政庁が行なうときに慎重な姿勢も必要ではないだろうか。現在、一定の基準(過去における青色申告の取消歴など)があるものの、納税者から青色申告の承認申請が税務署長に提出されると、納税者の知識の有無も確認せずに承認をしている。したがって、青色申告者を信頼する保障を行政庁は持っていない。ここに、国民主権における納税者主権主義といっても、正確な帳簿の作成を期待できない理由がある。青色申告の承認申請の承認に一定の資格基準、例えば、①納税者に青色申告を承認するまでに期間を設けること、(指導期間)②過去の納税実績や税務履歴の基準、③納税者の税研修や個別無料指導の消化((22))、④税理士法33条の2の書面添付(税理士が申告書に関してどの程度内容を調査し、責任をもって作成したものであるかについて、その責任を明らかにする目的で添付するもの((23)))など「これらの二つの条件を満たす」など納税者側に適用し、承認を行うことで納税者を信頼することが可能になると考える。基準を満たす意思のないものは、白色申告を選択すればよいのである。税が自費自弁の性質を持つ以上、税を適正に納税する態度が納税者にも必要であるのではないだろうか。まさに、これこそ行政と国民双方がもたなければならないフェアプレーの原則ではないか。現在の租税行政に国民の不満があるのは、税の仕組みをよく知らない納税者が、偏に税が不当に取立てられる観が((24))あり、不公平感が拭い切れないからであるのも一因であろう。国民もその面で租税研修等に参加することにより、自らの姿勢もたださねばならない。その代わり、納税者へ適用されると考えられる必要な情報は全て公開((25))されなければならないし、法も解り易くしなければならない。また、法解釈につき不明なもののは解釈を示す事前手続の保障が整備されるべきである。早急には、青色申告者にそれらの保障が行われる事により、国民主権の原理が租税法全体に働く事に繋がるのではないかと考える。したがって、青色申告者については、法解釈情報が敷衍される保障がなされることと課税関係成立過程における要件として事前に情報が公開されていない基準などがなければ租税行政庁は、納税者が修正申告や更正決定がされた場合、過少申告加算税((26))や附帯税などを賦課できない((27))制度の整備((28))および情報公開保障の原則というものを提唱するものである((29))。
(文責任者 一川明弘 平成24年4月1日)
(1)所得税の納税者のうち75%(前述の行政監察報告書による)を占める給与所得者につき、年末調整で納税事務が完了してしまうため、申告納税の納税監視機能が作用しないとして松沢智『新版租税実体法』(中央経済社,1994年)頁、北野弘久『税法学原論〔第4版〕』(青林書院,2000年)87頁、また総務庁行政監察局編『適正かつ公平な課税の実現を目指して 総務庁の税務行政監察結果より』(財務省印刷局,2001年)によれば、所得税の申告者のうち青色申告を選択しているものは55%となっており、シャウプの目指した青色申告が広く行き渡っているとは言えない。
(2)北野弘久『サラリーマン税金訴訟』(税務経理協会)3頁「現行制度のもとでは、多くのサラリーマンは租税法律関係に登場してこない」4頁「当租税国家においては一国の政治は、国のレベルにしろ自治体のレベルにしろ、所詮、租税を徴収し使用する作用であるといえる。つまり、広い意味での租税のあり方が一国に政治に決定的な意味をもつ。そして広い意味での租税のあり方が納税者意識の形成に重要な影響をもたらす。具体的に税制のあり方が一国の政治のバロメーターといってよい。とりわけて個人納税者の大部分を構成するサラリーマン納税者に関する給与所得税制のあり方が重要な意味をもつ」。石村耕治『先進諸国の納税者権利の憲章〔第2版〕』(中央経済社,1996年)75頁「サラリーマン納税者の”納税者としての権利意識”は、アメリカなどに比べると総じて低い。(略)こうしたサラリーマン納税者の消極的な意識が培われたのは、わが国特有の給与所得の計算における年末調整制度(所得税法312条)が大きな原因である、といわれている」。
(3)浦野広明『納税者の権利と法』(新日本出版社,1998年)「訴訟に持ち込まれる件数も非常に少ない。1996年度における税務争訟の発生件数は前年度よりも約600件少ない9,426件で、その内訳は異議申立が6051件、審査請求が2974件、訴訟が401件である。このうち訴訟事件の終結状況をみると、(略)納税者の全部勝訴割合はわずか3.5%にすぎない」。
(4)松沢智『租税手続法』(中央経済社,1997年)91頁「国民主権主義的租税観」とは「適正な申告納税制度確立の基礎に『青色申告』を据え、後述のように、憲法の国民主権主義の基本原則から導かれる『納税者主権主義』の表明としてこれを捉え、しかも、違法な課税処分に対しては、単なる納税者の権利救済にとどまらず、更に、青色申告をして行政の違法をも是正させようとする本質を持つ。」、93頁「最高裁判所も、基本的には『国民主権主義的租税観』に立ち、『租税の根拠は、民主政治の下で国民が国会における代表者を通じて、自ら国費を負担するのが根本原則であって、国民はその総意を反映する租税立法に基づいて自主的に納税義務を負うもの』である旨判示している(最判昭30・3・23判決、民集9巻3号326頁)」としている。「国庫主義的租税観」とは93頁「国家の課税権保護の考え方(略)租税法をして国家財政収入の確保の規定とのみ考える」としている。
(5)北野弘久『納税者の権利』(岩波新書,1981年)39頁「申告納税制度は、憲法理論的には国民主権ないしは人民主権の原理の租税法的展開を意味する。それゆえ、納税申告権(納税者による納税義務確定権)の行使は、憲法理論的には、主権者としての納税者の権利行使を意味する。現在、何千万のサラリーマンは、所得税の源泉徴収における年末調整制度の適用により、事実上、申告権を奪われている。」「申告納税制度は、それ自体憲法理論的に重要な意味をもつものであるが、この制度は納税者(タックスペイヤー)意識の形成・維持という点において、民主政治の展開上も重要な意味をもつ。」としている。人民主権主義は「権利」として「国庫説」に対するものであるが、「納税者主権主義」(参政権に導かれる指導原理)における国民主権主義とは性格が異なる。
(6)松沢智『租税法の基本原理』(中央経済社,1983年)241頁。
(7)同前241頁。
(8)同前241頁。
(9)品川芳宣「租税法律主義と税務通達第8回」税理44巻9号(2001年)15頁は長年公表されず、公表された加算税通達につき「このような取扱いの整備は、おそらく前述したような関係法令規定の不備を際立たせることになろうが、それはそれで立法的解決を図れば済むことである。そして、このような法律関係を明確にすることは、納税者の予測可能性と法的安定性を保障することになる。」としている。
(10)室井力『行政の民主的統制と行政法』(日本評論社,1989年)16頁。
(11)松沢智『租税手続法』(中央経済社,1997年)391頁。
(12)大橋洋一『行政規則の法理と実体』(有斐閣,1989年)364頁行政規則の公表の必要性について参照。
(13)座談会 木村弘之亮ほか「税制・税務行政のあり方」税研(2001.1)3頁〔木村発言〕通達につき『ソフトな規範』としての性質決定をする位置付けを強調されているが、安易に課税庁のみが入手しうる情報(通達)課税が行われる虞があり、法整備を放棄することにつながりかねない。まずは租税法律主義から疑問であり、むしろ公表という手段を利用することにより整備を進ませることが重要である。
(14)総務庁行政監察局編『適正かつ公平な課税の実現を目指して 総務庁の税務行政監察結果より』(財務省印刷局,2001年)。
(15)首藤重幸「判例回顧 違法な通達に起因する過誤納金の発生と還付加算金」租税法研究第26号(1998年)148頁は大阪地判 平8・2・7において国税通則法の不備につき言及している。しかし、このような場合であっても青色申告者であれば納税者の保護の原則が働くのではないだろうか。
(16)佐藤英明「税務行政監察結果報告書を読んで」税研(2001.1)49頁は保護について事前確認制度及び公表された解釈への保護の信義則適用については疑問をなげかけている。
(17)畠山武道『現代法律学講座8 新版租税法』(青林書院,2000年)47頁。通達の公表の必要性、事前照会の整備、不利益の救済。
(18)品川芳宣「税務通達の法的拘束力と納税者の予測可能性」税理43巻14号(1999年)10頁「このような通達の法的性格論は、本来、納税者側が通達によって権利が侵害されないことを保障するものと解されるが、最近の裁決例及び裁判例をみると、税務官庁側が、その法的性格を逆手にとって、税務通達に従っていないような(又はそのことが不明な)課税処分を合法化する傾向がみられ(略)納税者の予測可能性を一層害しているようにも見受けられる」。
(19)金子宏『租税法第七版』(弘文堂,199年)507頁「当初の申告額が結果的に過少となったときは、増差税額の10パーセントの金額の過少申告加算税が課される。ただし、増差税額が期限内申告税額または50万円のいずれか多い金額を超える場合には、そのこえる部分の金額の5パーセントに相当する金額が加算される。」現在納税者が解釈などを争った時など過少申告加算税を免除する法令は無い。「正当な理由があると認められるものが在る場合には、」理由相当分(対応分)は過少申告加算税が免除されるものの、税務官吏の裁量による。敗訴のなどは免除に当たらない可能性がある。「正当な理由につき」最近情報公開法施行の影響で、運営方針が明らかになったが、明瞭性にかけ、事実認定であるため裁量の入り込む余地がある。「正当な理由」につき岸田貞夫・大野千寿子「過少申告加算税・無申告加算税が賦課されない『正当な理由』税理43巻14号(2000年)37頁。
(20)左藤英明「税務行政監察結果を読んで」税研(2001,1)事前確認制度について「回答の信頼保護制度と一体でなければ実質的な用をなさず」「個別的な制度として機能する範囲では同様の取引を行う場合に事前確認を求めなかった納税者との公平の問題が生じるし、その質問・回答をインターネット等で広く公表する場合には、租税法律主義との関係が深刻なものとなる」同様な趣旨で菅納敏恭「事前確認制度の整備・充実」税理44巻2号。 しかし、公開された通達につき信頼保護の原則は適用されないし、法解釈の争いは最終裁判所に委ねるべきで、青色申告に限っては「租税正義」の観点から、手続が保障されるべきであるので過少申告加算税が働かないようにすれば信頼の原則は働かなくともよい。但し、更正請求の期限があるので(申告期限から1年)過大に納税を行った場合は「更正の請求の排他性」の問題がある。
(21)例えば大阪高判平11・1・26は税務相談に対する国税局の回答等は一般的説明であって税務官庁の公的見解の表示に該当せず信義則の適用はないとされた。
(22)品川芳宣『附帯税の事例研究』(財経詳報社,1989年)63頁以下は過少申告加算税、参照。
(23)中村芳昭「青色申告の趣旨」『租税実体法Ⅱ 租税手続法』(学陽書房,1998年)221頁はシャウプ勧告が「具体的に正確な帳簿記録の重要性の教育、模範的な記帳様式の作成をあげたが、これらだけではなお不十分であるとし、『正しい記録をつけるための誘因策』が必要であるとして、次のような青色申告者に対する手続的保障の提案に及んでいる」とし、「実地調査をしない限り、更正決定を行わない。」「更正決定を行ったら、明確な理由を表示しなければならない」としているとする。
(24)宮口定雄「書面添付の場合の意見聴取制度の確立」税理44巻8号59頁。
(25)三木義一『現代税法と人権』(勁草書房,1992年)146頁「給与所得者の不公平感の中には、事業所得者は青色専従者給与などの利用により家族、特に配偶者に給与を支払う形で所得を分散できるのに、給与所得者の場合にはそれができないという問題も含まれている。」。
(26)税務情報の公開をよびかけるものとして、右山昌一郎「申告納税制度と税務行政のあり方」税研2001.1 46頁。 
(27)松沢智『租税争訟法改定〔補正版〕』(中央経済社,1999年)248頁参照。品川芳宣『附帯税の事例研究』(財経詳報社,1989年)63頁以下は過少申告加算税につき過少申告加算税が免除される「正当な理由」の研究において、法規裁量であるとし、税法解釈の疑義につき「それは、結局、具体的事案に即して判断せざるを得ないことになるだろう。」としている。
(28h)岸田貞夫・大野千寿子「過少申告加算税・無申告加算税が賦課されない正当な理由」税理43巻14号37頁。公開された事務運営指針によれば「①納税者の責めに帰すべき事由のない②法令解釈の相違があった場合で、納税者の解釈に相当の理由があると認められる」の解説。林仲宣「各種加算税・青色申告の承認取消に係る判例・裁決例の動向」税理43巻14号(2000年)31頁は、所得税法の運営指針では、税務職員の誤指導によるものでも「正当な理由」としている点につき、信義則の適用についても「厳しい適用要件を強いている」とし、それらの「確定申告の納税相談等の形式・方式や十分な資料の提出」の範囲を注目していく必要がある。」としている。最近の判例として東京地判平12・8・28 損害賠償請求事件 判例タイムズ1063号124頁は「正当な理由」に「納税者の税法の不知又は誤解に基づく場合は含まれない」。