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情報公開からみた判例

基準情報の公開について実体法の中ですべては明らかになっていない。租税は租税法律主義とよばれてはいるが法令が明確にその基準を示していないものは多い。法令や通達において明定されていないものに、法人税法における役員の退職金の額の過大判断の問題がある。法人税法28条は「内国法人が各事業年度においてその退職した役員に対して支給する退職給与の額のうち、当該事業年度において損金経理をしなかった金額及び損金経理した金額で不相当に高額な部分の金額として政令で定める金額は、その内国法人の各事業年度の所得の計算上、損金の額に算入しない。」と規定し、また、法人税法施行令72条は「政令で定める金額は、内国法人が各事業年度においてその退職した役員に対して支給した退職給与の額が、当該役員のその内国法人の業務に従事した期間、その退職の事情、その内国法人と同種の事業を営む法人でその事業規模が類似する者の役員に対する退職給与の支給の状況等に照らし、その退職した役員に対する退職給与として相当であると認められる金額をこえる場合におけるそのこえる部分の金額とする。」と規定している。これにつき、次の事件があった(東京高判昭56・11・18 行裁例集32巻11号1998頁)。

事実の概要は、以下のようなものである。控訴人Xは不動産の売買及び仲介斡旋料を業とする青色申告法人であるが、昭和46年11月15日から昭和47年9月30日までの事業年度において、Xは昭和47年8月25日に退職した取締役A,B,C及び監査役Dに対して退職金各1500万円計6000万円を未払金として損金の額に算入した。これに対してY税務署長は5820万円は法人税法36条にいう過大な退職給与に該当するとして損金算入を否認した。Yは、役員退職給与が過大であるかどうかは、退任時の最終報酬月額を基礎として退職金を算出する方式を採っており、これに勤続年数と功績倍率によって算定することが妥当であるとして、各役員の適正退職給与を算出した。
これに対し判決は、「役員に対する退職給与が利益処分たる正確をもつことが多いため、一定の基準を超える部分は利益処分として損金算入を認めない」と法人税36条の趣旨を述べ、「256社のうち167社が退任時の最終報酬月額を基礎として退職金を算出する方式をとっており、さらにそのうち154社が最終報酬月額と在任期間の積に一定の数値を乗じて退職給与金額を算出する方式をとっていることがみとめられるのであるから、退職給与金額の損金算入の可否、すなわち相当性の判断にあたって原告と同業種、類似規模の法人を抽出し、その功績倍率を基準とすることは、前記法令の規定と趣旨に合致し合理的である。」としている。
上記事件は役員退職給与が争われた事件であり、その後実務界においても、代表取締役などの退職金損金算入限度額を算出する根拠となっている判例である。退職金の損金算入限度額の計算にはその後において類似業種一年あたり退職金平均額をもって比較する判決(札幌地判 昭58・5・27)、事業規模が類似する同種事業の法人支給事例の平均功績倍率(東京地判 昭49・12・12)の三つが使用されている。しかしながら、これらの判決において使用された同業類似規模の法人の支出額は公開されてはいないのである。これらにおける類似同種事業規模法人の情報は申告後の更正処分や修正申告の指導時において、基準として使用されるがその情報は公開されていない。これにつき、判例は原告の「憲法84条の租税法律主義に内在する課税要件明確主義」違反であることの主張に対して「課税要件にかかわる租税法規は、できるだけ明確に定めることが求められる。しかし、他方において、経済現象は、複雑多様にして流動的なものであり、これに対応して損益や所得、資産の実質に応じた公平な課税を実施することが要請されることを考慮すれば、租税法規を明確かつ一義的に定めることは、到底困難というほかない。」「あらゆる場合を想定して相当な退職給与の額を明確かつ一義的に定めることは困難であるというべきである一方、右の定めは相当な退職給与の額の決定に当たり考慮すべき事情を類型的に列挙しており」、「損益等の実質に応じた公平課税実現のためには、租税法規の明確性の要請も一定の制限を受けざるを得ないのであるから、そのために必要な限度において、納税者の予測可能性が制限されることがあってもやむを得ないといわざるを得ない。」として原告の主張を斥け((1))、過少申告加算税の賦課も免除していない((2))。同様に基準が公開されていないものは、他にも、法人税法34条(過大な役員報酬の損金不算入)法人税法36条の2(過大な使用人給与の損金不算入)法人税法36条の3(過大な使用人退職給与の損金不算入)などが、法人税法上給与関係の条文としてあるが、それら何れにおいてもその基準となる数値は公開されてはいない((3))。特に給与においては、同業の平均値が使用されるが、「平均」などと使用される数値は、最大最少が存在するのであり、それらの取扱いはどうしているのか不明である。平均以外の最大は更正されているのかも明らかではない。これらは、判決が言う様に数値的な基準は当然経済とともに変化するものであり、法例等で明確に定めることができないにしても行政庁が基準を公開せずに課税を行うことが租税明定主義に反する行為であると考える。租税行政庁としては更正処分に適用する情報が入手されているのであるから、「経済現象は複雑かつ多様にして流動的であり」というのは理由にはならなず、その時々の運用基準を公開できないという理由にはならない。また、同業類似規模の判定のもととなったデータや過去の基準など租税行政庁が適正額と考える参考などが法律で無い旨併せて示されていれば、租税行政庁との事前照会の指標となったり、納税者はそれと参照し過大と判断する部分をあらかじめ益金に参入すれば更正されることは無くなる可能性が開ける。それが、租税行政庁の過大判断後の課税所得と同じ結果になったときは、現在の制度のように過少申告加算税などの附帯税を支払わなくてもすむのである。したがって、租税行政庁のみが知りうる数値を使用し、誠意ある青色申告者が更正されるべきではないと強く考える((4))。法に対しての解釈につき納税者と租税行政庁が同じ視点に立ってはじめて、適正な租税行政が成立するのではなかろうか。この点につき、同業者類似必要経費率の民事訴訟法220条の文書提出の申立((5))においては、「公務員の守秘義務」に該当し、提出が避けられたが、民事訴訟法220条が改正され(平成13年法96)において、そのロにおいて「公務員の職務上の秘密に関する文書でその提出により公共の利害を害し、又は公務の遂行に著しい支障を生ずるおそれのあるもの」に該当するのか、今後の判断に期待される。また、情報公開法5条において不開示情報にあたらなければ開示義務があり、守秘義務の関係は「(参考)本法に基づく行政機関の職員の開示行為と国家公務員法100条の秘密を守る義務との関係」(詳解 情報公開法 総務省行政管理局編 発行財務省印刷局2001年39頁)において「本法の規定に基づいて行政文書を公開する行為は、国家公務員法100条第1項の『秘密を漏らす』には該当せず」とされているので((6))、今後、個人や法人の情報であっても個人名などの情報源が特定されないような形で統計などの資料や基準は開示されるべきである。

(文責任者 一川明弘 平成24年4月1日)
(1)札幌地判平11・12・10訴月47巻5号1226頁。
(2)他にも名古屋高判平4・6・18税務訴訟資料189号727号、高松地判平5・6・29行集44巻6・7号541頁、国税不服審判所裁決平2・12・20など。
(3)三木義一『現代税法と人権』(勁草書房、1992年)213頁「現行税法、特に過大役員報酬損金不参入を規定している法人税法が申告納税制度を採用」していることにつき、「納税者自身がまず法令を解釈・適用して申告しなければならず」として、税法が行為規範であるとし、課税要件明確主義が「納税者」の予測可能性を保障するものであることが強調されねばならない」とする。
(4)武田昌輔「役員退職給与金の相当性」別冊ジュリスト租税判例百選 第三版(1992年)87頁は「ちなみに、これらの適正退職金の判定基準については、課税当局のみが実例を収集することができるという点には問題が存する。つまり、納税者ではこのようなデータの収集はまず不可能だからである。」としている。三木義一・前掲注(141)223頁は納税者として知りえる従業員などの規模における役員報酬基準につき合理性があり「不相当」として否認すべきでないとし、不合理であるとするなら「具体的基準を公表すべき」であるとしている。
(5)金子昇平「租税訴訟における文書提出の申立」同前148頁。
(6)室井力『現代行政法の原理』(勁草書房、1976年)21頁。公務員の秘密「形式説」「実質説」について。